『体制転換期ネパールにおける「包摂」の諸相』が出版されました!

『体制転換期ネパールにおける「包摂」の諸相』 S―分厚いですね!
藤倉達郎―はい、全592頁、執筆者14名です。
S-国勢調査の歴史、お肉屋さんや楽師カースト、先住民集団の変容、人身売買サバイバー、ストリート・チルドレン、女性、キリスト教、チベット仏教、在外ネパール人の市民権と、トピックも多彩ですね。執筆者もベテランから若手までいて、日本のネパール研究の層の厚さを感じます。ブータンにおける王権と民主化についての章もありますね。
藤倉―現代ネパールおよびヒマーラヤ地域の政治・社会・文化について知りたい人に是非読んでもらいたいです。


体制転換期ネパールにおける「包摂」の諸相
――言説政治・社会実践・生活世界
[編]名和克郎

多民族・多言語・多宗教・多文化性を前提とした連邦民主共和制に向けた転換期のネパールを生きる人びとの歩み、その主張と実践がおりなす布置を「包摂」を梃子に明らかにすると同時に、「包摂」をめぐる現象を民族誌的状況(生活世界)の中に位置付け、「統合」から「包摂」へと転換した「民主化」のいまを描きだす。

定価=本体 6,300円+税
2017年3月17日/A5判上製/592頁/ISBN978-4-88303- 433

[目次]

はじめに/名和克郎  ii

凡例  iv

序章 体制転換期ネパールにおける「包摂」の諸相――言説政治・社会実践・生活世界/名和克郎  1
   I  本書の企図  2 
   II  近現代ネパール国家と住民  5 
   III  ネパールにおける「包摂」  12 
   IV  本書の構成  18

第1章 近現代ネパールにおける国家による人々の範疇化とその論理の変遷/名和克郎  35
   I  はじめに  36 
   II 1854 年ムルキ・アイン―国家単位でのカースト的ヒエラルヒーの設定  39 
   III  パンチャーヤット時代―少数民族政策の欠如  50 
   IV 1990 年憲法―民主化とマイノリティ問題の表面化  56 
   V 1990 年憲法下における出自に基づくマイノリティの運動と政府の対応  61 
   VI  マオイストの主張―様々な「解放」への戦い  65 / VII 2007 年暫定憲法―集団的多様性と「包摂」  68 
   VIII 2015 年憲法へ  71 
   IX  おわりに  77

第2章 ネパールの「カースト/民族」人口と「母語」人口――国勢調査と時代/石井溥  89
   I  はじめに  90 
   II  近現代ネパールの国家形成、国民形成と国勢調査 90 
   III  国勢調査の手引き書にみる 「ジャート」「ジャーティ」「ジャナジャーティ」  95 
   IV 1991 年、 2001 年、 2011 年の国勢調査結果の「カースト/民族」集計比較  98 
   V  言語(母語)人口と「カースト/民族」 108 
   VI  結論  115 
   表 1 ~ 12 123

第3章 国家的変動への下からの接続――カドギのカースト表象の展開から/中川加奈子  131
   I  はじめに  132 
   II  先行研究  132 
   III  カドギたちによる運動の展開  136 
   IV  新たな社会環境への接続  146 
   V NKSS の役割の変化 155 
   VI  おわりに  161

第4章 ガンダルバをめぐる排除/包摂――楽師カースト・ガイネから出稼ぎ者ラフレへ/森本泉  165
   I  はじめに  166 
   II  排除/包摂をめぐって ダリットと移民  169 
   III  ガンダルバをめぐる変化―生業とアイデンティティ  173 
   IV  グローバル化と社会空間の変容―アイルランドに渡った兄弟の事例  182 
   V  おわりに  191

第5章 ネパール先住民チェパン社会における「実利的民主化」と新たな分断
――包摂型開発、キリスト教入信、商店経営参入の経験/橘健一  199
   I  はじめに  200 
   II  ネパール先住民チェパンと 2000 年以降の山村社会の変化  201 
   III  社会の変化と新たな言説の広がり  205 
   IV  包摂型開発の成功  209 
   V  キリスト教への入信の進展  220 
   VI  バザールの商店経営への参入  226 
   VII  実利的民主化と新たな社会的分断  228

第6章 何に包摂されるのか?
――ポスト紛争期のネパールにおけるマデシとタルーの民族自治要求運動をめぐって/藤倉達郎  233
   I  はじめに  234 
   II  マデシ自治州運動  236 
   III  タルー自治州運動 244 
   IV  結びにかえて  251

第7章 そこに「女」はいたか――ネパール民主化の道程の一断面/佐藤斉華  257
   I  はじめに  258 
   II  女性による/についての/のための言説  259 
   III  ネパール女性をめぐる諸言説―評価  279 
   IV  おわりに  286

第8章 テーマ・コミュニティにおける「排除」の経験と「包摂」への取り組み
――人身売買サバイバーの当事者団体を事例に/田中雅子  297
   I  はじめに  298 
   II  社会的スティグマを抱える人びとにとっての当事者団体  300 
   III  ネパールにおける人身売買  306 
   IV  人身売買サバイバーの当事者団体シャクティ・サムハ  311 
   V  人身売買の被害に遭ったサバイバーが経験した排除  314 
   VI  当事者団体としての包摂の実践 323 
   VI  結論―当事者団体による活動の到達点と課題  328 
   VII  おわりに  330

第 9 章 ストリート・チルドレンの「包摂」とローカルな実践――ネパール、カトマンドゥの事例から/高田洋平  335
   I  はじめに  336 
   II  子ども、日常的実践、ストリート空間  339 
   III カトマンドゥのストリート空間  343 
   IV  ストリート・チルドレンの日常的実践  349 
   V  おわりに  371

第10章 乱立する統括団体と非/合理的な参与
――ネパールのプロテスタントの間で観察された団結に向けた取り組み/丹羽充  377
   I  はじめに  378 
   II  ネパールのプロテスタンティズムと統括団体―歴史的概観  381 
   III  「真の」代表の座をめぐって  388 
   IV  非/合理的な参与  394 
   V  おわりに  401

第11章 「包摂」の政治とチベット仏教の資源性
――ヒマラヤ仏教徒の文化実践と社会運動をめぐって/別所裕介  409
   I  はじめに―「仏教」をめぐる政治動態  410 
   II  中国の開発資本と「発展のため」の仏教  419 
   III  ヒマラヤ仏教徒の文化実践と社会運動  425 
   IV  ターニング・ポイントとしてのルンビニ観光年  442 
   V  おわりに― HB による文化実践と社会運動  446

第12章 移住労働が内包する社会的包摂/南真木人  451
   I  はじめに  452 
   II  移住労働は社会的包摂に寄与するか  454 
   III  ネパールにおける移住労働  455 
   IV  移民送り出しシステムと仲介者  457 
   V  移住労働の実態  465 
   VI  社会的送付と社会的包摂  473 
   VII  おわりに  479

第13章 多重市民権をめぐる交渉と市民権の再構成
――在外ネパール人協会の「ネパール市民権の継続」運動/上杉妙子  485
   I  はじめに  486 
   II  「ネパール市民権の継続」運動の背景  490 
   III 在外ネパール人協会と「ネパール市民権の継続」運動  497 
   IV  考察 516 
   V  結論  519

第14章 現代ブータンのデモクラシーにみる宗教と王権
――一元的なアイデンティティへの排他的な帰属へ向けて/宮本万里  525
   I  はじめに  526 
   II  国会と国会議員の役割  529 
   III  ポリティクス(政党政治)からの距離をめぐって  533 
   IV  デモクラシーと王権  535 
   V  市民の権利と宗教者であること  539 
   VI  選挙委員会の権限と役割  545 
   VII  公共的な空間と差異の政治  546 
   VIII  おわりに  550

おわりに  555

索 引  558
執筆者紹介  576