井上 春緒（南アジア・インド洋世界論講座）
「町のお師匠さん」
コルカタにあるインド音楽の先生の稽古場に訪れる機会を得ました。印象的だったのは子供からおじさんまで様々な年齢層の生徒達が習いに来ていることでした。先生のように世界中で活躍する演奏家でも、ひとたび地元に戻ると「町のお師匠さん」になるということがわかりほっとした瞬間でした。みんなが和気あいあいとベンガル語でしゃべりながら稽古をしている中にいると、垣根もなく言葉や音が体に染み込んでくるようです。心配そうに見つめるお母さんをよそ目に、一生懸命に太鼓を叩いている子供が印象的でした。いつかこの子がステージ上で演奏する姿を見ることでしょう。
何百年と続いてきた師から弟子への継承が、こんなのどかな日常の中で育まれてきたのだということに気づき、人々を魅了し続けるこの音楽のすばらしさを再認識したのでした。
【「アジア・アフリカ地域研究情報マガジン」第138号（2014年12月）第103回「メルマガ写真館」より引用】