大学院生の声 院生座談会 Part 2

大学院生の声 院生座談会 Part 2

2020年度 グローバル専攻座談会

Fさん(1回、中央アジア/トルコ・ウズベキスタン)

Gさん(2回・司会、南アジア/ブータン)

Hさん(3回、南アジア/パキスタン)

Iさん(4回、中東/ヨルダンおよびヨーロッパ)

Jさん(5回、南アジア/インド) 

 

入学前に持っていたグローバル地域研究専攻の印象

Gさん:皆さん、今日はお集まりいただき、ありがとうございます。1回生から5回生まで参加してくださり嬉しい限りです。どうぞよろしくお願いいたします。

Gさん:時系列に沿って入学前の話から始めさせて頂きます。入学前に持っていたASAFASの印象について、まずはグローバル地域研究専攻(以下、グローバル専攻)の重鎮でいらっしゃるJさんから。 

Jさん:私ですか!? 私、社会人からの入学で、ASAFASしか受けていないこともあって、印象らしい印象も残ってないんですけど。オープンキャンパスで覚えてるのは、「インド研究したい人がたくさんくるはず!」と思って行ったら、イスラーム(イスラーム世界論講座)の希望者が多かったという印象ですね(笑)。年によってばらつきがあるので、グローバル専攻全体としては偏ってるわけではありません。

Gさん:Iさんはどうですか?

Iさん:私は春のオープンキャンパスに参加しました。稲盛*で全体説明を受けた後、先生方がご自身の研究やグローバル専攻のことを説明して下さり、入学したいという思いが強くなりました。加えて、上級生とお話したさい、ある院生室を見せて頂いたのですが、「冷蔵庫とかある、綺麗な部屋だな」と思っていたらそこに所属することになって(笑)。グローバル専攻に対しては、いい意味でキリッとしている印象がある。二次試験の面接に備えて控室で待っていた際、東南アジア地域研究専攻やアフリカ地域研究専攻の面談部屋からは笑い声とか和やかな声が聞こえてきたため、「こういう雰囲気の院なんだ」と最初は思いました。ところが、自分の面接に行ったら、錚々たる先生方がドンと座っていて誰一人笑っていなくて恐かった(笑)。

 ※稲盛とは:川端キャンパスに立地する稲盛財団記念館を指す。通常の講義だけでなく、研究科全体の会議や催しも行われる。

Gさん:確かに、そういうイメージは入学してからもありますよね(笑)。

Hさん:オープンキャンパスの印象になりますが、全体的に明るく活気があって熱心だなと感じました。私はオープンキャンパスに3回参加していて、1回目が東京のASAFAS全体の、次にグローバル専攻だけの方に参加しました。グローバル専攻の先生方からは、公開講義や進路の説明を通じ、学生を受け入れて教育する熱意がすごく伝わってきました。他大学のイスラーム学は全然雰囲気が違っていて、「うちのとこ入っても就職できないよ」とか、ネガティブなことを言ってくる。入ってほしくないとは言わないまでも、歓迎しない雰囲気があった。それと比べてASAFASには、研究に対する熱意さえあればOKという雰囲気がある。フィールドワークや論文の執筆を支えるシステムがあり、先生方からも熱心な印象が伝わってきました。

Gさん:今の話で思い出しました。私もオープンキャンパスに参加したとき、指導希望の先生が“BHUTAN”と大きく書かれたバッグを肩に掛けていて、「もしかして自分に入学してほしいのでは!?」なんてことを考えていました(笑)。

Jさん:最初にその先生を見たときに、京大の先生ってもっと堅苦しいのかと思っていたので、「すごいラフな格好の先生おられるんや~」とびっくりした記憶があります(笑)。

Gさん:Fさんはどうですか?

Fさん:私は大学入学以前から大学院に行こうと思っていて、学部2回生くらいから、どこ行こうかなと探していました。学部3・4回生のとき、グローバル専攻のオープンキャンパスに2回行きました。大学院説明会は、一番初めにASAFASに行った後、京大の他研究科にも行ってきました。Hさんと同じで、ASAFASが一番学生を受け入れる熱意があると感じました。そのため、4回生のときはもう受けるつもりで過去問をもらいに説明会に行ってきました。入学前のイメージとしては、アフリカ地域研究専攻は人類学、東南アジア地域研究専攻は生態学とか農学を専門にされている先生方や学生が多い一方、グローバル専攻は悪く言うと統一感がない、良く言うとバラエティーがある、という印象でした。

 

入学試験について

Gさん:入学前の話を伺ったので、次は入学試験の準備について、入学して間もないFさんからお願いします。

Fさん:私はASAFASの受験を決めた当初から指導希望の先生に相談しました。英語はしっかりと勉強し、専門については、『岩波イスラーム辞典』(大塚和夫他編、2002、岩波書店)や『中央ユーラシアを知る辞典』(小松久男他編、2005、平凡社)といった辞典を読み物として丸々読むことを勧められました。加えて、入試に関わる先生の専門に照らした内容のブックレットをカードにまとめる作業もしてました。それは結構いい対策になったなと思います。

Gさん:英語や専門の対策について、他の方からもありますか?

Hさん:イスラームの専門科目はFさんと一緒なんですが、英語にかんしては、イスラームのスーフィズムの専門書を読んでました。英語の学術専門書をしっかり読めるぐらいの英文に慣れてからASAFASの過去問を解くという感じでした。参考書とか使ったわけではないですね。

Gさん:なるほど。どうですか、Iさん?

Iさん:オープンキャンパスのさい、どういった問題が出るのかはちらっと見せてもらったんですけど。

Jさん:私も過去問を見ました!

Fさん:講座によっても試験問題は違いますよね。

Gさん:ちなみに、私はASAFASの過去問を教務係のあるオフィスで写して解いたりとか、『京大・学術語彙データベース 基本英単語1110』(京都大学英語学術語彙研究グループ・研究社編、2009年、研究社)を使ったりしました。

Iさん:専門科目の対策についても話しましょう。私は、大学時代に何をしてきたか、そして、そのことを自薦書に含めて伝えられるかが一番重要かなと思います。私は国際政治学を学んでいました。グローバル専攻のなかでも平和共生(平和・共生生存基盤論講座)の問題には、イスラームや南アジアと違って統一性がないため、過去問をぜんぶ見て使われているキーワードを書き出してました。例えば、国民国家、遊牧、地域統合といった単語が並んでいたんですけど、どんな単語が出てきても、グローバル化や移動の自由といった国際政治学のトピックに結びつけて模擬解答のパターンを作るといった対策をしてました。

Hさん:南アジアについては、『岩波イスラーム辞典』に匹敵するような事典はあるんですか?

Jさん:『南アジアを知る事典』(辛島昇他監修、2012、平凡社)があります。これと、『南アジア社会を学ぶ人のために』(田中雅一・田辺明生編、2010、世界思想社)という本を併用して受験に臨みました。

 

入学後に感じたグローバル地域研究専攻の印象 

Gさん:入学試験と緊張感のある面接という試練を乗り越えた皆さんが入学後に感じたグローバル専攻の印象を教えてもらえますでしょうか?

Jさん:博士前期課程のうちは、同期でよく集まってましたね。うちの場合はお酒飲む人が多くて(笑)。よく集まって5時ぐらいまで飲んで、日が昇ってから解散してました(笑)。でも、飲むのも朝までだし、研究するのも朝までかけて皆でやってたこともあります(笑)。予備論文の提出前夜とかもみんなで励まし合って書いてたっけなあ・・・(笑)。

Gさん:入学前は堅いイメージがあったけれど、学生同士も仲良く、夜明かすこともあった。

Jさん:あとは院生室にもよりますね。私たちの院生室は皆で集まってなんかすることないよね?

Gさん:こないだ院生室の人たちとカフェに行きましたね。和やかで楽しかったです。また新しい人たちも入ってきたので皆さんで行きましょう。入学後の印象について、Iさんはどうですか?

Iさん:大学院ってもっと鬱屈した場所なのかと思っていた。グローバル専攻はクリーンな感じ、Jさんは同期の繋がりを話して下さったんですが、私は縦の繋がりがある感じで、先輩方に何を聞いても優しく教えてくださる。全然、違うテーマの先輩も同じ部屋にいるので色んなことを聞ける。

Jさん:院生室に学年も研究もバラバラな人が、阿弥陀くじで決められた部屋割りでいるので色々な人と話せる!

Gさん:そうですね、先輩様様です。

 

フィールド(調査地)と研究テーマの決定

Gさん:皆さんのなかには、フィールドや研究テーマが決まってらっしゃる方もおりますが、どういう風に決めていったのかについてお話いただけますでしょうか。

Iさん:あんまり喋っていないので、G君からどうですか?

Hさん:このなかで一番、長く、半年間、フィールドに行ってますね・・・。

Gさん:入学前からブータンを対象国にする、というのはずっと決まっていたのですが、調査するとなると現地の受け入れ先がないとダメなので、ASAFASのネットワークを頼って、ブータンの特定の地域を選びました。研究テーマは入学後にかなり変えたのですが、フィールドワークを経て方向性が定まってきた感じです。グローバル専攻の院生の多くは他専攻と比べて入学前から研究テーマをある程度決めていますが、私は違いました。

Jさん:他専攻では、先生と一緒にフィールドに入っていく人もいますよね。グローバル専攻では先生とフィールドに行くことがない。いきなり飛ばされる。

Iさん:放り出されますよね(笑)。

Fさん:私の場合、絨毯を研究対象とするのは学部進学以前から決めていたので、そこは変わっていないのですが、調査地をトルコにするか、中央アジアにするかでつい最近まで悩んでいて・・・、今も不安がないわけではない。最近、指導教員を通してカウンターパートを紹介してもらったところで、今度、フィールドワークに行けるようになったら予備調査でまず其の人に会いに行こうと思っています。お家に住み込んで調査するのを想像しており、受け入れ先をカウンターパートと一緒に探す予定です。

Jさん:絨毯を研究テーマに選んだきっかけは何だったんですか?

Fさん:話しだすと長くなるんですが、大学進学前に自分で洋服を作って売ったりしていたんです。服のことをやっていたのでファッションに疲れてしまい・・・。一方でテキスタイルに興味があったため、気に入った平織の絨毯を研究しようと決めました。そして、トルコ系遊牧民について研究するため、とりあえずトルコ語とペルシア語とアラビア語を学べるところということでグローバル専攻を受験しました。

Jさん:へ~!

Gさん:自分の興味がずっと続いているのは素晴らしいことですよね。Jさんは入学前に社会人をやられていたそうですが、社会人の経験と今の研究テーマは結びついているのですか?

Jさん:全然、結びついていません(笑)。働いていたのは機械メーカーです。仕事は全く関係なくて、学部の時にインドに留学していたため、進学してインドの研究をしたいという夢を持っていました。でも、すぐに進学すると、その後、研究者以外の道に進むのが難しくなると聞いていたため、職歴があった方がいいかなという軽い気持ちで3年間、働いていました(笑)。その間、大学院に進学する費用を貯めてました。

Gさん:私もその選択肢をASAFAS入学前に考えていました。フィールドの話に戻りますが、Iさんはフィールドワークでヨーロッパにも行かれていましたよね。その辺の話も含めて、調査地をどう決めたのかを教えてください。

Iさん:私は博士予備論文まではヨルダンを調査地にしていました。テーマのシリア難民につて調査をできる、安全な国としてヨルダンを選びました。そして、博士予備論文を書いた後、ヨルダン以外の地域と比較するのも面白いよねという話になって、ASAFASでは異例のヨーロッパをフィールドとすることになりました(笑)。テーマは院に入る前からずっとやりたかったことをやっていて、ASAFASに入ってからも一切変えていません。

Gさん:ヨーロッパでの過ごし方や調査はいかがでしたか? ヨーロッパは楽しかったですか?

Iさん:後ほど、詳しくお話しできたらと思うのですが、ヨーロッパでは孤独でしたね。すごく綺麗な景色、そして、カフェで団らんする楽しそうな人たちのなかで私一人、ひたすら移民街を練り歩いて・・・、アラブだと「へ~い」という感じで話しかけられるんですけど、そういうこともなく。でも、移民系の人が経営しているカフェで紅茶を飲んでライフヒストリーを聞くのは楽しかったです(笑)。

Fさん:滞在先はホテルだったんですか?

Iさん:ホテルに泊まるお金がなかったため、ドミトリーに泊まってました。3週間ずつ、5ヶ国回っていたんですけど、女の子5,6人が宿泊しているドミトリーでは、色々な人がどんどん、ぐるぐる入れ替わっていくんですよ。私はドミトリーのドンみたいに段々なってきて(笑)。

一同:(笑)

Gさん:Jさんはインドでどこに滞在していましたか?

Jさん:私は基本的に留学時代の友人か、現地で知り合った人の家に居候していました。本当はインフォーマントの家に宿泊できればいいのですが、都市部で調査していると、空いてる部屋がないからと断られたり、色々と難しくて。あとは大学の寮もありました。

ターター社会科学大学の学生寮(インド・ムンバイ)

 

同学生寮での食事

 

Gさん:私も大学の寮に泊まってました。あとはホームステイですかね。ホームステイ先は自分で探して、そこで調査についても依頼しました・・・。

ホームステイ先の部屋の写真。仏間の一角を利用させていただいた(ブータン)

 

Hさん:私は文献研究のため、滞在先がもっぱらホテルでした。調査地は主にパキスタンで、本屋さんから出版されているウルドゥー語の本を集めていました。パキスタンのラホールには、本屋さんが3千軒ぐらい、集まっているところがあり、南アジアのイスラーム思想系の調査はとりあえず其処に行って本を買ってくるというのが定番。本屋さんが開いている平日は、そこに行ってテーマに近そうな本を買って持ち帰り、一方で、土日は本屋さんが閉まっているため、ホテルで休んでいました。集まった本は帰国直前に一気に郵便局に送る。最初は、1週間だけの滞在だったのですが、本を買うだけで充実してたかな。 

 

フィールドで辛かったこと、 フィールドで楽しかったこと

Gさん:先ほど、Iさんからご指摘もありましたが、フィールドで辛かったこと、楽しかったことをお聞きします。

Iさん:楽しかったことは、文献で読んだ世界が立体になって肌で感じられたことです。ヨルダンの首都アンマンを地図で眺めていると、F地点からG地点まで行くのはすごく楽そうだなと思っていたところ、実はものすごく急な坂で徒歩だと1時間かかりました。平面じゃなくて立体で分かるというのがフィールドでの毎回の楽しみです。その経験はヨーロッパでも共通で、個々の地域の住民についてデータでは十分に把握できないけれど、移民街のモスクに行くと、こっちではトルコ系のご飯が提供されているけど、あっちではカレーになるみたいにリアルに伝わってくる。あと、アラブでは料理が本当に美味しかったです。

街並みに馴染むように新設された、運河の畔のモスク(オランダ、アムステルダム)

 

Gさん:ご飯の美味しさは大事ですよね、フィールドは、ご飯が合わないと相当きついです。

Jさん:苦手な香辛料がある人は南アジアをフィールドにするとかわいそうかな(笑)。

Iさん:確かに、スパイスが合う・合わないはありますね、私は何でも食べれるので参考にならないかも。

Jさん:私は何でも食べてお腹壊すタイプです(笑)。必ず1回は壊して病院にお世話になって(笑)。

Gさん:ブータンでは料理を食べるのがつらくて。嫌いではないんですけど、ブータン料理って世界一辛いんですよ。全部唐辛子入っていて、私は新陳代謝がいいので、毎回、汗だくになりながら食べて。

トウガラシのチーズ煮込みであるブータンの国民食(エマダツィ)のなかでも、 豚肉とじゃがいものチーズ煮込み(パクシャパダツィ)は少し特別

 

Hさん:おもろ(笑)。

Gさん:あと、お酒が出てくるんですよ。調査で村の家を訪ねていくと、毎回、行くたびにお酒を出してくれて。コップの縁ギリギリまでお酒を注ぎ、少し飲んだら注ぎ足す。お酒に強くないんで、2軒ぐらい周るとべろんべろんに。

Jさん:インドだとチャイですよ。チャイだったら、最初は1日5軒ぐらいまわったら砂糖たっぷりのチャイでお腹ぽたぽた、もう要らないってなってたけど、最近は大丈夫(笑)。「またチャイが貰える、やったー!」みたいな(笑)。

Gさん:南アジアあるあるですね。Iさんは辛かったことありますか?

Iさん:テーマが難民研究なんで、シリア難民の方にインタビューして泣かせてしまった時が一番つらかったですね。誰かを亡くした過去や、明日を生き延びる上での直近の問題が山積みなので、インタビューによってそういった苦しみを思い出させてしまうことがあります。相手を泣かしてしまって、調査を手伝って下さっている方も一緒に泣いてしまって、自分の研究というのが驕り、傲慢なものなんじゃないかなという悩みは一生ついてくるなと思います。

Gさん:それは確かにつらいですね。

Iさん:研究を止めようと思ったこともフィールド中は結構ある(笑)。

Jさん:フィールドに行く前の話ですが、インドの宗教間の暴力をテーマにしようとしていたら、フィールドに行く前に自分が暴動に巻き込まれる夢を見て、すごい怖くなって研究テーマを変えました。やっていくのが無理だなと思って。

Gさん:辛い体験も、フィールドに行かないと分からないことがあり、そういうこともフィールドにいける利点、ASAFASのいいところなのかなと。

Iさん:そういう痛みを知らずに難民研究は出来ないと思います。

Hさん:Gさんも辛かったこと、言っていいんじゃない? 長く行っていたし。

Gさん:辛かったこと。辛かったことは激辛とお酒(笑)。楽しかったことは、おばあちゃん達との触れ合いです。おばあちゃん達に現地語で話すと笑ってくれたり、私がしたことで盛り上がってくれる。そういった出来事に出会うと嬉しい。あと、ブータンには、外国人や研究者の入っていない地域がいっぱいあるんですよ。そういうところに行けるというのにロマンを感じてました。くだらない考えですが・・・(笑)。

Iさん:Gさんが開拓者ってことですね。

Gさん:Jさんはどうですか?

Jさん:まぁ、似たような感じかなと。外国人だったので、インタビューしたいんですけど、って連絡をとったら、向こうも来てきて、って。私たちの話を聞いて、って呼んでくれて。齢が近ければあなたはもう私たちの友達だからとか、年上の人たちだとあなたのことを娘のように思っているから何時でも来てね、と喜んでくれたり。あとは町中でも、外国人が現地の言葉を話せるとは思ってないから、ちょっとだけ話しただけで、「えっ、喋れるのか」と。大した言葉を話してないのに、「お前すごいな」ともてはやされる(笑)。そこが嬉しくなる。

Gさん:確かに、嬉しくなりますよね。これから入学する人が気になっているであろう、お金のことも聞いてみましょう。フィールドワークの資金や支出について、Hさん、文献研究ですと、毎日たくさんのお金が出ていくような感じがするんですけど、どうでしょうか?

Hさん:本自体はエクスプローラー・プログラムから出してもらえて。パキスタンだと月6万円、それと自分のポケットマネーを持っていきますね。本自体はとても安いんですよ。日本円で4千円するような分厚い本も千円ぐらいで買えるので本自体はバンバン買えちゃうんですけど、それを日本に送るための送料がものすごく高い。50キロぐらい買ったと思うのですが、それで7、8万の送料がかかる。圧倒的に足りないですよね。先輩が同じ町で調査していたので頭を下げて貸してもらって。現地に行って知り合いの先輩がいたら困っているときに助けてもらえる、連絡を取っておいた方がいいというのを学びました。

Gさん:インドにはASAFASから行っている学生が多いですよね。同じ時期にフィールドに行っている学生が、インドのデリーといった主要都市に集合するというのを聞いたことがありますが、Jさんの時はありましたか?

Jさん: インドをフィールドにしてる人は多いですけど、国が広いので、中々、会う機会はないですよね。書類の関係でデリーに行った時に同期に会ったことはありますけど、自分の調査地で、となると・・・。そういえば、フィールドスクールというのがあって一度、指導教員が私の調査地に来られたことがありました。そのさい、先生の調査に関係ありそうな人をご紹介し、一緒に行って先生がインタビューしている様子を見て学びました。先生がどういう質問をして、返ってきた答えにどう切り返すのかを見てなるほどと。

 ※フィールドスクールとは:京都大学の臨地教育支援センターが実施してきた、フィールドワークの支援プログラムの1つ。

Gさん:それはいいですね。私も指導教員が調査しているのを見てみたいです。 

Iさん:そういうのうらやましいですよね、中東では先生と行く機会はなかったです。ヨルダン研究をしていた先輩が多かった時には、4,5人が全員、重なるときもあったそうです。私の場合、ある先輩とヨルダンでかぶって、お茶するぐらいはしたことありましたけど。美味しいゴハンの情報を交換したり、気分転換するぐらいはいいんじゃないですか(笑)。

 

京都キャンパスでのグローバル地域研究専攻の雰囲気や大学院生の生活

Gさん:グローバル専攻の雰囲気や院生室の雰囲気、大学院生活全般について教えてください。

Hさん:コピー機や製本機を比較的、自由に使えるのが大きい。スキャナーもあるため、図書館で借りした本をスキャンしてデータで持っておけば借りなくても済む。研究のための設備に関しては今のところ、全く不満がない。自分の思い通りに研究できるというのが良い雰囲気にもつながるのかなと。

Jさん:蔵書は本当に充実してますよね。京大全体だけでなく、ASAFASの図書館にも物凄く沢山の蔵書がある。

Hさん:研究のための文献数は全国でもトップクラスです。利用しない手はない。

Iさん:院生一人一人に机があるのもすごい!

Jさん:あと1回生はパソコンを借りられる。

Gさん:24時間院生室を使えるっていうのも便利ですよね。

Jさん:街が近いというか、前の大学は山の上にあって、大学の周りに何もない。それに比べて近くにコンビニもあるし、24時間、大学に居続けられる(笑)。

Iさん:それがいいかは分からないですけど(笑)。

Gさん:確かに、グローバル専攻の院生室のある百万遍のあたり、美味しいレストランも沢山ありますし、生活するにはいいポイントですね。

Jさん:なんだかんだ、誰かしらいるため、深夜でも一人じゃない。

Hさん:孤独じゃないっていうのは大きいですよね。

Iさん:深夜にボール遊びしている京大生もいて、夜遅くに帰る身としてはありがたい。

Hさん:先輩との距離も近いですよね。他研究科の話を聞くと孤独だと聞きます。ASAFASは附属センターを通じた研究支援も充実してますね。

 

水曜ゼミについて

Gさん:水曜ゼミ*について雰囲気や特徴を教えてください。グローバル専攻の教員全員が参加する点はとてもありがたいですよね。

※水曜ゼミとは:毎週水曜に開催される「グローバル地域論研究演習」の通称。院生が研究発表を行う場であり、活発な議論が展開される。博士論文執筆前の院生には、同ゼミにおける研究計画や進捗状況の報告を通じて研究活動を主体的に進めていくことが期待される。

Hさん:他の大学にはないですよね。

Iさん:テーマも多様で面白いですよね。学部時代に聞く機会のなかった話も聞けて。Fさんはどう思われましたか?

Fさん:私、Zoomで開催された最初の水曜ゼミしか出ていないので、雰囲気とかよく分かってないんですけど、先生と院生の数が半々くらいじゃないですか。フィールドワーク中の人がいることを差し引いても、全体として少数精鋭感がありました。こんなに手厚く指導を受けられるのだなと。

Hさん:先生と学生の比率はかなり近いですよね。分野外の先生がいっぱいいるじゃないですか。イスラームの話を平和共生や南アジアの先生方も聞いてかなり積極的に質問してくださる。専門的な話もあれば、初歩的な事実確認の話もあり、分野外の人にも分かり易く伝える力を問われていると感じます。

Jさん:私は南アジアのことをやっていますけど、ムスリムの話もでてくるので、イスラーム世界論講座の先生方から一般的なイスラームのことを指摘されます。私が調査してるムスリムの人たちって、中東でイスラーム研究をしている人たちから見るムスリムとは全然、違うというのを認識できる。

Fさん:地域も比較できるし、分野の違う視点も入る。

Hさん:南アジアでイスラームやっている人は、両方の先生からコメントいただけるので環境としてはありがたいですね。

Iさん:分野外の先輩と話す機会もあります。今はZoomなので対面の機会が限られますが、いつもは初回のゼミの後に懇親会があり、そこで上級生と話せるので大体、〇〇先輩の地域やしていることが頭に入ってくる。

 

博士予備論文と博士論文における挑戦について

Gさん:最後に、博士予備論文と博士論文における挑戦についてお話を伺います。

Jさん:1回生のFさんに参考になるように、どうやって書いたかをお話しします。グローバル専攻全体の傾向としては、修士のうちは、あんまり長く調査地に行かない方がいい、授業を受けて基礎的な知識、分析枠組みを習得した方がいいという指導をなさる先生方が多いです。長期でフィールドに出るのは3回生以降にしてくださいという感じがあるので、夏休みと春休みにフィールドに行ってそのデータをもとに予備論文を書きました。私は1回生の時は夏にエクスプローラーで行って、春は京大が大学として募集していた「おもろチャレンジ」*で渡航費用を捻出し、2回生の夏にもう1回エクスプローラーで調査を行い、合計3回行って予備論文を書きました。最後の調査は3週間くらいの短期でした。指導教員とは、だいたい2週間に1回のペースで面談し、論文提出が近くなる2回生の後期からは、そのペースが週1回に上がりました。「毎週書いてきて見せなさい」、「レジュメではなくて書いてきてください」と言われてました。それで提出すると「はい、全然、ダメですね」と言われて返されてました。

 ※おもろチャレンジとは:京都大学が実施している体験型海外渡航支援制度を指す。既成の留学とは異なり、学生が主体的に発案したプログラムを支援する点に特徴がある。

Fさん:それは2回生になってからですか?

Jさん:はい。1回生のころは授業に出て、ひいひい言いながら課題を出し、1回生の最後には予備論文の1部を提出する課題があり、それもひいひい言いながら出し、2回生になってからは「その内容じゃ全然だめだから直せ」と言われて出し直し、フィールドのデータを見ながら書き加えていきました。そして、2回生の夏のフィールドでは足りなかったところを見るために行き、帰国後に書きあげましたね。1回生の夏と春、2回生の夏の3回に分けてフィールドワークに行き、渡航期間は合計4ヶ月ぐらいだったと思います。

Fさん:暴動に巻き込まれた夢を見たのはいつ頃の話ですか?

Jさん: 1回生ではじめてフィールドワークに行く前の話です。『沈黙の向こう側』(ウルワシー・ブターリア、2002年、明石書店)という、印パ分離独立時の惨劇を描いた本を読み、それが夢に出てきて、こういうのを研究テーマにするのは無理だなと思いながらフィールドに行きました。調査対象は、宗教に絡んだ暴動が起きないように予防活動をしている団体だったのですが、同じ団体が、異宗教間結婚の夫婦の支援もしており、そのご縁で今の研究テーマを決めました。

Fさん:暴動とか怖いなとか思っている状態で現地に行ってみて、たまたま異宗教間結婚に繋がるようなテーマが決まったということですね。フィールドワークに行ってからテーマが決まったとかいう話をよく聞くんですが、自分が今年、コロナの影響でフィールドワークに行けない状態なので、2回生でフィールドに行ってからテーマを変えるとなると結構、しんどいなと感じています。1回生の夏ぐらいまでに予備論文の全体構成を大まかにでも考えておいた方がいいとか言われるじゃないですか。でも、その後にフィールドワークをやって変わったらどうなるのかなと・・・。

Iさん:私の「博士論文に向けた挑戦」を話しますね。ずっと尽きない悩みは、地域研究って学際的で決まったディシプリンがないことです。個人的にやっている移民・難民研究も学際的で、自分のディシプリンがふわふわしていて、それが予備論文では如実に出ました。でも、私は地域研究そのものを学ぶものになりたいので、自分のディシプリンに囚われるよりは其の曖昧さを受け入れ、博士論文を面白いものにしていきたいです。

Hさん:それは分かりますね。思想研究もディシプリンとして確立しているかといわれると、○○学ではないじゃないですか、文献学の部類には入るのかなとは思いますが、自分のディシプリンって何なのだろうとは思いますね。どの学問的枠組みで論じるのかはASAFASの皆が悩んでいます。

Fさん:新入生として、私は今もふわふわしていて。はたから見ていると皆さん、すごいなと、そんな自信のない時期があったんだろうかと思います。

Iさん:先輩の予備論文を読んでいると苦しみが分かります(笑)。

Fさん:Iさん、Jさんのお2人にお聞きしたいのですが、イスラーム圏で未婚女性が1人で調査することに対して現地の人からは良く思われないと耳にするのですが、そういうので困ったことはないですか? 例えば、モスク入っても女性はすぐ2階上がってとか、入ったらダメとか言われるとこもありましたか? ちなみに、Jさんは大学院入ったときはご結婚されてましたか?

Jさん:いえ、博士前期課程のうちは独身です(笑)。予備論文を出してから結婚しました。

Fさん:では、ご結婚なさる前とご結婚後の変化について教えてほしいです。

Jさん:とりあえず、会ったら結婚しているのかという質問が最初に来る。結婚してないと言ったら、何で結婚してないんだという話になる。結婚して、結婚指輪を付けて行っても、インドでは左薬指の指輪はファッションだから既婚者の意味じゃないと言われました。未婚だから、というので入れなかった場所とかはないです。なんかあんまり良い例が話せなくてごめんなさい(汗)。

Iさん:服装の注意点からお話しします。長袖・長ズボンでサングラスをして目が見えないようにすると絡まれにくいかな。それでも触られたり、痴漢には会うので、タクシーは絶対、後部座席に座る。場所については、入れなかった所より、入れた所のメリットの方が大きいかな。男性が入りづらい家庭の台所や、モスクの女性側の礼拝所にも入れるし、女性だけの集まりにも参加できる。私、普段、自分の女性性を意識してないですけど、フィールドでは活用しています。一方で、女性/男性というより、ムスリムじゃないから入れないっていう場所はある。 

Jさん:生理中だと儀礼に参加できないといった経験はありました。血が穢れたものだから。セクハラとか、男性でも聞いたことありますけど、どうですか?

Hさん:イランの地下鉄でお尻を触られてました。あからさまにガードすれば大丈夫でしたけど。

Iさん:後を付けられたことはある。

Gさん:私も後を追いかけられました。人間じゃなくて犬に(笑)。安全対策とか感染症対策の講義もASAFASにはありますね。

Jさん:日本から持っていった薬は効かない!インドの医者に掛かれば一瞬で治りますけど(笑)。市販薬が効かないので、病院に駆け込んだ方が早いというのを学びました(笑)。

Fさん:Jさんは今年、博士論文を出されるんですか?

Jさん:今年はスキップして来年以降に(笑)。南アジア・インド洋世界論講座では博論ゼミというのが月1回あり、博士課程から京都を離れた先輩も北海道や新潟から参加しておられました。私もコロナが終息すれば子供を連れて参加することになると思うんですが。ゼミでは、毎回、博士論文の1章分を持っていって講座の先生方と予備論文を提出した院生からコメントをもらいます。

Gさん:京都にいないとき、どういう風に研究を進めてらっしゃるのですか? 文献の収集とか。

Jさん:子どもができるまでは、普段は近くの国立大の図書館で勉強するようにしてました。家だとなかなか・・・(笑)。文献については、ゼミなどで京大に来たときに必要に応じてPDF化して持ち帰ったり、自宅からでもアクセスできる電子ジャーナルを活用してました。京都にいて院生室という環境があるというのはありがたいことで、周りが研究してるし、「自分もやらなきゃ」という気にさせてくれます。 

Iさん:私、来年出せたらいいかなと。研究については、考えたくない時期と楽しい時期がある。現在は楽しい時期なんですが、このデコボコをなるべく平たんにするのが課題かな。大学の近いところに住んでいるので、何時でも印刷しに行ったり、モノを取りに行けるのは便利。あとは健康管理についてですが、ストイックで頑張るのも大事だけれど、自分なりの生き抜きやストレッチの時間を持つのも大事かなと。

Hさん:どうやって休みますか? 休み方のコツとかあったら教えてほしいんですけど?

Iさん:日々やることを大切するっていうのは大事かなと、自炊でも掃除でも、登校中の道端の草の花を見るとか(笑)。そういうのに目を向けられなくなっていると、私追い詰められてるなと。

一同:なるほど。

Jさん:院生室で人と話すのが息抜きになっていた気もしますね。遠くにいるとそれもできないし、孤独です(笑)。

Gさん:またコロナが終息したら遊びに来てください。

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